【地面師たち】現役司法書士の地面師対策
【この記事は現役の司法書士が執筆しています】

ドラマ「地面師たち」では、実際にあった事件を扱っています。
積水ハウスが地面師に50億以上の不動産取引について騙された事件です。
ドラマでは100億円の設定になっています。
ちなみに、小説版の地面師たちでも100億円の設定です。
実際の裁判
実際の事件では裁判も行われて、損害賠償請求などがされています。
実際の事件は「地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団」というノンフィクション書籍でめちゃくちゃリアルな描写を見ることができます。超おすすめの本です。
地面師に対して
2021年1月27日に積水ハウスが、詐欺グループ10人に損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(鈴木昭洋裁判長)は、争わなかった5人に計10億円を支払うよう命じられました。なお、主犯格とされる無職、カミンスカス操被告(61)ら他の5人は争う姿勢を示しており、今後、審理が続く予定です。
司法書士に対して
東京高等裁判所平成30年9月19日に控訴審判決は、司法書士の注意義務違反を認め、積水ハウス自身の過失も考慮して、当初の請求金額の半分である3億2400万円について請求を認容しました。
当初は、司法書士としての注意義務違反を理由に6億4800万円の損害賠償の支払いを求める民事訴訟を東京地方裁判所に提起されていましたが、その半額が認められたのです。
司法書士から見た地面師たち
司法書士から見ると心臓に悪いドラマです。
実際の事件自体は数年前のものであり司法書士であれば全員知っている事件ですが、いざドラマという形で臨場感を持って見ていると、東京タワーのてっぺんにくくりつけられているような感覚になります。息苦しいです。
自分がこの事件の司法書士だったらと思うと身の毛がよだちます。
また、普段仕事をしていても関係者から「司法書士ってバカじゃん、なんの役に立つんだよ」みたいな目線で見られているような気になります。
完全に被害妄想です。地面師たちを見ていない人にも、司法書士をバカにされているような感覚にさえなります。
しかし、実際のところ、現実の実務では地面師対策は十分ではないかもしれません。
地面師とは
不動産を使った詐欺師のことを「地面師」といいます。
昔からいる類型の詐欺師であり、大半の事件の被害額は数千万円から多くても数億円です。
しかし、ドラマ「地面師たち」の実際の事件では、50億円以上という巨額犯罪だったため、2017年当時も大変話題になりました。
その巨大な被害額から注目を浴びた詐欺事件であったため今回のドラマ化につながったのでしょう。
司法書士とは
登記の専門家であり、不動産登記の所有権などの登記は司法書士が代理人となります。
司法書士の役割のひとつに「銀行の融資が実行されるGOサインを出す」があります。
何億円といった金額が銀行から融資される場合、司法書士が登記書類をチェックした上でGOサインを出すことによってはじめて融資が実行されます。融資が実行されると、当事者の銀行口座にお金が入ります。
地面師にとっては、銀行からの融資金を騙し取りたいので、司法書士をなんとか騙したいのです。
司法書士が最後の防波堤であり、司法書士の融資実行GOサインを出させるために詐欺を働きます。
司法書士の地面師対策
地面師が出たら司法書士の間で情報が回る
どこかの地域で地面師による詐欺が確認された場合、基本的に各司法書士事務所に情報が共有されます。
物件の場所、手口、被害額などが共有されるのです。
地面師だと見破れないのか
司法書士が本人確認(本当の所有者であり地面師ではないと確認する作業)をするときには以下をチェックします。
- 権利書
- 印鑑証明書
- 身分証明書
- 面談(実際に会う、オンラインで対面する)
逆にいうと、これらが揃っていたら基本的に司法書士は信用します。
司法書士の疑いの目をくぐり抜けたい地面師は、これらの書類をあの手この手で偽造等して、司法書士を騙してきます。
地面師は権利書を持っていない…?
権利書を盗まない限り、本物の権利書を地面師が持っていることはほとんどありません。
また偽造も難しいです。
よって、地面師の手口としては「権利書は無くした」がほとんどです。
では、権利書を無くしても土地を売買できるのか?というと…できます。
地面師でなくても、権利書を無くしていることは普通にあります。たとえば、数十年前に親から継いだ土地の場合、権利書を持っている人の方が珍しいです。
地面師の話なので「権利書がないなら怪しいだろ!司法書士は節穴か!」と思われるかもしれませんが、実務上では年間何件も権利書がない場面に出くわしますので、権利書がないだけでは地面師とは確定しません(もちろん疑いの目は持ちます)。
権利書がないならどうする
権利書がない場合、権利書に代替する書類を作成します。
司法書士が面会をして、「本人である」ことを確認するのです。
権利書を無くした経緯や思い出話から、干支を聞くなど、明らかに疑いの目を持った質問をします。
特に問題がなければ、司法書士は権利書に代わる書面を作成します。
印鑑証明書は本人確認の効力が強い
続いて印鑑証明書についてです。
司法書士には「職務上請求」という権限が与えられていて、業務のために他人の住民票や戸籍謄本等を取得できます。
これはある意味、勝手に取得できます。やろうと思えば本人に内緒で取得できるのです。
もしも、悪いことを考える司法書士がいれば…これは危ないですよね。たとえば、地面師のグルに司法書士がいたら…。
しかし、実はこの職務上請求で取得できる書類の中に印鑑証明書は入っていません。
つまり、印鑑証明書は本人に取得してもらう必要があるのです。
よって、印鑑証明書はある意味で、本人確認の効力が強いものになります。
基本的に本人しか取得できない=それを持っているなら本人だろうという推測が働くからです。
身分証明書は写真付きで
実は法律上、不動産登記を申請するときに身分証明書は求められていません。
しかし、司法書士という職務上、必ず身分証明書を確認します。
基本的には顔写真付きの身分証明書を求めます。
ドラマのように免許証にライトを照らすのか?


免許証は裏からライトを照らせば、ICチップや偽造防止のマーク(ドラマでは描写なし)が透かされます。
実務上、これをやる司法書士はあまりいませんが、私はやります。
それこそ小説版の「地面師」を読んで、これは司法書士として人ごとではないと思い、必ずライトで照らすようにしています。私はスマホのライトで行います。
また、司法書士試験に合格後の研修では、このライトで照らす方法での偽造確認を教えられました。(私は東京研修ではありました)
ICチップの中身を読み取れる機器などもあるようですが、そこまでやる司法書士は見たことはありません。
面談する
司法書士が本人と会う機会は、融資実行の当日です。
実は事前面談をしたり、不動産の調査をしたりすることはありません。それらは不動産屋さんがやります。
司法書士は「初対面の人を地面師だと見破れ」という過酷な任務を背負わされています…。
オンラインで面談
住居が遠方の場合など、オンラインで面談することも少なからずあります。
司法書士もオンラインの場合は、疑いの目が大きくなります。
例えば「権利書はない、面談はオンラインでお願いしたい」みたいな依頼者は、かなり怪しいです。場合によっては、依頼を断ります。
オンラインで面談しなければならない事情、その他書類を総合的に考慮して大丈夫なのであれば、面談はオンラインだけで済ますことがあります。
書類等が全部揃っている人
権利書、印鑑証明書、身分証明書、面談の全てが揃うと、地面師だと見破ることはほぼ不可能です。警察のような捜査もしないわけですから。
もちろん地面師側もバレないようにします。初対面の人間の本性はそう簡単に分かりません。
よって、書類による審査が主になります。権利書と印鑑証明書と身分証明書の全てが問題なければ騙されてしまうでしょう。
逆にこれらが完璧なのにどうやって見破ればいいのか…常に頭を悩ましています。
しかし、疑うことが司法書士の役割でもあるので、地面師対策をより厳しくしても良いのではとも思います。
地面師が関わる人
地面師は、関わる全ての人を騙しています。
不動産屋、銀行、司法書士。
地面師が接点を持つ順番もこの順番です。
まずは、不動産屋を騙します。騙された不動産屋は、銀行へ融資を持ち掛けます。
銀行も審査をしますが、騙されてしまうと融資の日程決めが行われます。
融資当日に、不動産屋、銀行、司法書士が一同に会します。通常、銀行に集まります。
そこで司法書士が騙されてしまうと、登場人物全員が騙されてしまい、地面師の勝ちとなります。
最後に
司法書士から見ても、地面師の数はそう多くはありません。
実際に私も出会ったことはありません。怪しいものは最初から全て断っています。
しかし、1人でも地面師がいる限り油断はできません。
この地面師たちのドラマは司法書士にも良い影響があるでしょう。
「自分だけは大丈夫」と思っている司法書士のふんどし締め直す効果があると思います。
※この記事は執筆者の個人的な感想に基づきます。
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